ITパスポートの難易度が年々上がっているという声を聞きます。国家資格の難易度が年度ごとに若干上下するのはよくある話ですが令和5年度のITパスポート試験は特に難しいという声も聞きます。これが事実がどうか第1回目の試験で一発合格した筆者が自らの体験と公開データを照らし合わせて検証してみます。
なにか際立った評判や噂が立った時、まずは一次情報を参考にするのは最も有力な手段です。今回の検証ではIPAが公開している試験結果のデータから年度ごとの合格率の推移を読み取ることで、ある程度の傾向は分かると考えられます。
IPAの公開データから見るITパスポートの合格率の推移
下表はIPAが公開しているITパスポートの統計情報のうち、応募者・受験者・合格率とそのパーセンテージについて年度ごとに一覧にしたデータの抜粋です。
一番右端の列は各年度の応募者・受験者・合格者の合計と受験率・合格率の平均値です。
出典:IPA公式サイト>公開情報>統計情報>2.統計資料 推移表
より見やすくなるように、下記に右端の部分だけを抜粋します。
- 2列目の数値は上から応募者・受験者・合格者の順番になります。(単位:人)
- 3列目の数値は上から前年度比・受験率・合格率の順番になります。(単位:%)
(人数) | (%) | |
平成23年度 | 17,064 | |
15,470 | 90.7 | |
6,289 | 40.7 | |
平成24年度 | 68,983 | 304.3 |
62,848 | 91.1 | |
25,796 | 41.0 | |
平成25年度 | 74,391 | 7.8 |
67,326 | 90.5 | |
32,064 | 47.6 | |
平成26年度 | 78,720 | 5.8 |
71,464 | 90.8 | |
34,215 | 47.9 | |
平成27年度 | 80,949 | 2.8 |
73,185 | 90.4 | |
34,696 | 47.4 | |
平成28年度 | 86,305 | 6.6 |
77,765 | 90.1 | |
37,570 | 48.3 | |
平成29年度 | 94,298 | 9.3 |
84,235 | 89.3 | |
42,432 | 50.4 | |
平成30年度 | 107,172 | 13.7 |
95,187 | 88.8 | |
49,221 | 51.7 | |
令和元年度 | 117,923 | 10.0 |
103,812 | 88.0 | |
56,323 | 54.3 | |
令和2年度 | 146,971 | 24.6 |
131,788 | 89.7 | |
77,512 | 58.8 | |
令和3年度 | 244,254 | 66.2 |
211,145 | 86.4 | |
111,241 | 52.7 | |
令和4年度 | 253,159 | 3.6 |
231,526 | 91.5 | |
119,495 | 51.6 | |
令和5年度 | 77,141 | |
67,820 | 87.9 | |
35,388 | 52.2 |
この表では分かりにくい人もいると思うので、年度ごとの受験者数と合格率の推移を棒グラフと折れ線グラフで示すと下図のようになります。
- 受験者数:棒グラフ(青色)
- 合格率:折れ線グラフ(赤色)
まず受験者数についてですが、ITパスポートの受験者数は平成23年度の第1回試験から増え続けています。
次に合格率ですが、令和2年度にやや高い合格率を示していますが、令和4年度から平成30年度と同程度の合格率に戻っています。
ここから読み取れることは、ITパスポートの受験者数は確かに近年大幅に増加しているが、合格率は令和2年度を除いて大きく変わらないということです。
確かに令和元年度から令和2年度にかけて合格率はやや上昇気味だったといえます。
ただし、国家試験は年度によって出題傾向にムラが生じるのは周知の事実で、令和2年度の試験はまさに合格率が高くなりやすい出題傾向だったのかもしれません。
そのため令和5年時点で直近3年の合格率だけに焦点を当てると、令和2年度の合格率が高すぎたために令和3年度~令和5年度の合格率が下がっているように見えるのです。
しかしこれはデータだけで判断するとしたら少々偏った見方をしていると言えます。
むしろ、ITパスポート試験が初めて実施された平成23年度からの推移を見てみると合格率は上がっていると言ったほうが正しいです。
難易度が上がったと感じるもうひとつの理由
筆者の見解では前の項目で解説したとおりデータの偏った見方が一部の人達に誤った認識を与えている可能性が高いというものですが、もうひとつ忘れてはならないことがあります。
それはITパスポートの出題範囲に2022年4月から変更があったという事実です。
IPAの公開情報をもとに出題範囲の変更点を解説
下記はIPAが2021年10月8日に公開した「ITパスポート試験における出題範囲・シラバスの一部改訂について(高等学校情報科「情報Ⅰ」への対応など)」からの抜粋です。
プログラミング的思考力を問う擬似言語を用いた出題を追加します。また、情報デザイン、データ利活用のための技術、考え方を問う出題を強化します。なお、試験時間、出題数、採点方式及び合格基準に変更はありません。
擬似言語を用いた出題については、擬似言語の記述形式及びサンプル問題も公開しました。なお、出題範囲・シラバスについては今後も技術動向や環境変化等を踏まえ、内容の追加・変更・削除等、適宜改訂を行ってまいります。
IPAが公式サイトで公開した上記の発表と合わせて、シラバスVer6.0の【大分類 7:基礎理論 中分類 14:アルゴリズムとプログラミング】において、プログラム言語について出題することが明記されています。
ITパスポート試験は近年のAIやビッグデータの発展と目覚ましい活躍を無視できなくなり、2022年4月から模擬言語を用いた問題が出題されることが明記されていますが、実は模擬言語はもともとITパスポートの上位資格にあたる基本情報技術者試験で出題されるレベルの問題でした。
そういう意味ではITパスポートが難しくなったというのはまんざら間違いではないと言えます。
なお、出題範囲の変更に伴いテクノロジ系の中分類19、20にあたる項目に名称の変更がありました。
- 情報デザイン → ヒューマンインターフェース
- 情報メディア → マルチメディア
ただし、このこととデータから見る合格率の推移とは必ずしも一致しないことを明記しておきます。
出題範囲が大幅に変わる前の2021年度(令和3年度)の合格率は52.7%で、出題範囲が変わった後の2022年度(令和4年度)の合格率は51.6%と下がっているのは頷けます。
ところが、2023年度(令和5年度)の合格率はまだ年度の途中ですが月平均で52.2%と前年よりも高くなっています。
2021年度 (従来の出題範囲) |
2022年度 (出題範囲変更) |
2023年度 (出題範囲変更) |
|
合格率 | 52.7% | 51.6% | 52.2% |
そんなに難しくなったのなら、合格率が下がることはあっても上がることはないはずです。それとも受験者層のリテラシーが高く受験対策が万全だったのでしょうか?
実際の出題例から難易度を解説
参考までに令和5年の公開問題のサンプルからプログラミングに関する知識を問うと思われる問題を抜粋したものを下記に示します。
まず問60ですが、これは紛れもなく配列と繰り返し処理の知識を同時に問う問題です。
しかもforループが入れ子状になっているうえに、中のループが1回処理されるたびにIF文の条件分岐があるので少々難易度が高いです。
こういう問題は実際にコードを書くと分かり易いですが、文字だけで理解しようとすると頭の中だけで理解する必要があるので間違える確率が高くなります。
この程度のプログラミングは初学者でも対応可能なレベルの理解度でOKですが、模擬言語である点とこれまでプログラミングについて全く学んだ経験のない人が対象になることを前提にすると、少々難易度が高いと言えます。
恐らく、こういう類の問題を初めて見た人は何がなんだがサッパリ分からないはずです。
この1問だけなら良いですが、続けてみていくとさらにプログラミングの知識を問う問題が出題されていました。
問64は関数、引数、戻り値、繰り返し処理の知識を模擬言語を使って解く問題です。
プログラミングの知識を問う問題はこの2問だけで、この後例年通り表計算の知識を問う問題が1問出題されていました。
実際のところ、表計算で必要とされる関数を理解する能力があればITパスポートのプログラミング系の問題を理解することは十分可能ですが、厳密にはプログラミング系の問題のほうが若干難しいと言えます。
特に模擬言語を使って文法を理解するのは少しクセモノで、特定の言語に精通しているからと言ってスラスラ解けるかというと少し違います。
人は試験に挑むといちいち惑わされるものなので、模擬言語を用いたプログラミング言語の文法は読み違える可能性が高いと感じます。
やはり、国家試験は落とすための試験と言われる通り、わざと分かりにくく出題される傾向は否定できないので、ITパスポートの模擬言語を用いた問題は過去問や模擬演習などで回数をこなしてから挑むのが賢い選択だと感じます。
まとめ
以上、ITパスポートの難易度が上がったか否かという疑問について、公開データに基づいた考察を行うと同時に2022年4月から出題範囲が変更されたことに伴う問題の変化と合格率との関係性について個人的な見解をまとめました。
- 合格率は横ばいになりつつあった。
- 出題範囲の変更で合格率が下降気味になった。
- 影響は翌年まで響かず多くの受験者が対策に尽力した。
結論として、公開データから見ることのできる合格率は特定の年度を除き上がり続けていたが、近年ようやく横ばいに落ち着こうとしていたと言えます。
ところが2022年の出題範囲の変更に伴いテクノロジ系でプログラミングの知識を問う問題が出題されるようになったことで、一部の受験者は得点に至らなかったことが想定されます。
また、その影響は令和4年度の合格率が令和3年度よりも下がったことからも想像できます。
ところが、出題範囲の変更は多くの受験者はもとよりサポートする関係各位の努力によりおおかた対策がなされた為、令和5年の合格率は令和4年度よりも上回っているとしか言えません。(2023年8月時点)
より詳しいことは2023年度が終わる頃には明らかになるかと思われます。なにしろまだ年度の途中なので今後合格率がどう推移するのか見当がつきません。
繰り返しになりますが、ITパスポートの難易度が上がったという意見についてはある程度賛成します。
なお、ITパスポートについては持っていても役にたたないとか、難しすぎて受かる気がしないなど様々な声が聞かれますが、下記の関連記事において様々な疑問に対して詳しくまとめているので興味のある人は参考にして下さい。
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