二瓶鉄造は筋金入りの猟師でした。谷垣に言った通り巣穴から飛び出したヒグマを一発で仕留めヒグマについて語り始めます。ヒグマはメスのほうが気性が激しくて恐ろしいこと。今まで200頭以上のヒグマを倒したが同じ個性のものはいなかったこと。個性は別々でも習性は皆同じなのでそれを理解すれば有利に戦えることを教えてくれます。
変態猟師二瓶鉄造
二瓶鉄造は続けます。
「兵隊さんよ、狼との勝負は一度もないだろう」
谷垣が経験ないと答えると、
「ない、なにも知らんからこそ勝負がしたい」
「狼は人間の罠によって絶滅するまで駆除された」
「その知恵比べにも負けず生き残った最後の狼」
「そいつの個性と俺の個性の勝負・・・猟師の魂が勃起する！」
二瓶鉄造は筋金入りの猟師であるだけでなく変態猟師だったのです。
そして、この山に来た目的はレタラという蝦夷狼の最後の生き残りと勝負をするためだったのです。
その夜、谷垣は二瓶鉄造の小屋でクマの料理を御馳走になります。
名付けて二瓶御飯！
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料理名１：二瓶御飯～心臓焼きました！ 料理名２：二瓶御飯～血の腸詰！ |
特に血の腸詰はマタギの谷垣がクマの血を飲むことを知っていて、二瓶鉄造が特別にご馳走したものでした。
一口食べるごとに「血の味がして旨い！勃起！」と威勢のいい二瓶鉄造とは対照的に、谷垣は寡黙で無駄口をたたこうとしません。
そんな谷垣を見て二瓶鉄造はマタギの習性が染み込んでいると谷垣を評価すると同時に、なぜ似合わない軍帽を取らずここにいるのか、なぜ故郷に帰ってマタギに戻らないのか尋ねます。
谷垣はある目的があって軍に残ったが、山に入っているうちに毒が抜けて行くような感覚に襲われてここにいるのだと正直に話します。
そんな谷垣に二瓶鉄造はストレートに言います。
「お前にとって狼狩りは口実なのだ。軍にも故郷にも戻れず、お前の猟師魂は北海道の森の中を彷徨っている」
さらに、
「谷垣よ、狼を捕ったら毛皮を手土産に故郷へ帰れ」と勧めます。
それを聞いた谷垣は、不気味な笑顔を浮かべると軍帽をとって火に投げ入れてしまい、2人は怪しく笑い合うのでした。
最後に二瓶鉄造が叫びます。
「勃起！」
エゾシカ狩りで蘇る杉元の心の傷
同じ日、杉元はアシリパといっしょに手負いの鹿の後を追いようやく追いつきますが、今度もまんまと逃げられてしまいます。
その日はもう遅かったので、アシリパは近くの倒木を利用して簡単な小屋を作り、夜が明けてから足跡をおうことにします。
翌朝、雪の中から飛び出して糞をしたエゾシカの痕跡を発見したアシリパは、足跡の間隔からいよいよ近くまできていることを実感します。
そしてようやく木陰に隠れている手負いのエゾシカを発見すると、エゾシカは杉元の方向を目がけて突進してきました。
杉元はこの時、出血がツララで凍っているにも関わらず必死で生き延びようとするエゾシカの目を見ると、戦場での凄惨な光景がフラッシュバックしてしまい銃を撃つことができませんでした。
杉元は手負いで必死に生き延びようとするエゾシカを自分と同一視してしまったのです。
そして、またしてもエゾシカに逃げられてしまったと思った次の瞬間、エゾシカは飛び出してきたレタラに襲われ仕留められてしまいました。
アシリパはエゾシカにトドメを刺して肉を捌きながら、「最後まで責任を持てないのなら、最初から撃つな」と杉元に厳しいことを言います。
アシリパは死んだエゾシカの腹を裂き、杉元に中に手を入れさせます。
杉元は、「熱い、かじかんだ手がほぐれていく」と驚きを隠せません。
アシリパは、
「鹿は死んで杉元を温めた。鹿の体温がお前に移ってお前を活かす。私たちや動物たちが肉を食べ、残りは木や草や大地の命に置き換わる。鹿が生き抜いた価値は消えたりしない」
とエゾシカの死は決して無駄ではなかったことを教え、杉元も知らないうちに心を癒されます。
エゾシカの死に価値があり存在を否定しないということは、杉元自身の存在を認められていることにも繋がるからです。
アシリパが話すにつれ杉元の表情に生気が蘇ってきました。
その時、レタラの様子に異変が起きました。
レタラは近くに猟師がいることに感づいたようです。
レタラが察知したことに気付いたアシリパは運べるだけの肉をレタラに与え、自分たちもある程度確保すると残りは置いていくことにします。
そうすることでレタラが後で戻ってまた食べれるようにしたのです。
しかしアシリパのこの時の判断は後でレタラにとって不利になることがわかります。
レタラとの勝負を決意する二瓶鉄造
レタラが察知した猟師は紛れもなく二瓶鉄造と谷垣源次郎でした。
谷垣たちはアシリパたちが去った後のエゾシカの残骸や巨大な狼の足跡があることから、ここにペタラがいたことを推測します。
さらに、谷垣が双眼鏡でアシリパと杉元の存在を確認すると、推測は確信に変わりました。
二瓶鉄造はエゾシカの死体を食べに戻ってくるであろうレタラを仕留めるため、谷垣に「洗いっこ」をしようと誘います。
「洗いっこ」とは川に裸で入って体臭を消すことで、極限まで獣に悟られないようにする手法のことです。
ところが裸になった二瓶鉄造の姿を見て谷垣は驚愕します。
なぜなら二瓶鉄造の体には網走監獄を脱獄した囚人の入れ墨が掘られていたからです。
谷垣に入れ墨を見られても全く動揺しない二瓶鉄造はそれどころか減らず口を叩きます。
「屯田兵を殺しておいて、よくもそんな冗談が言えたものだ」
そう言って二瓶鉄造を攻める谷垣に対して、
「俺を撃って皮を剥ぎ、やっぱり軍へ戻るかね？」
「マタギの谷垣か、兵隊さんの谷垣か、今のお前はどっちなんだ？」
二瓶鉄造は谷垣の心を見透かしたように堂々としているのでした。
そして谷垣は今、マタギの谷垣であることを選択するのでした。
二瓶鉄造は自分がなぜ網走監獄に収監される身になったのか、自分の過去について語り始めます。
昔、猟師を狙って獲物を奪う悪い奴らに運悪く自分が狙われてしまったという。
ところが二瓶鉄造は逃げるどころか3日かけてひとりずつ順番に見つけ出すと、銃を使わず棍棒で殴り殺していきました。
そしてあと一人殺せば最後というところで山狩りの警察に先を越され犯人を逮捕されてしまいます。
ここで大人しく我慢していれば良かったのですが、人間としてのルールを破った男を許すことのできなかった二瓶鉄造は最後の一人を警察官の見ている目の前で首をへし折って殺害してしまったのです。
二瓶鉄造は山で死にたいから脱獄したと本音を語ります。
勝負の果てに獣たちが自分の体を食い荒らし、糞となってばら撒かれ山の一部となることを本望としたのです。
つまり、二瓶鉄造は金塊などには全く興味のかけらもなかったのです。
「お前なら分かるだろ？マタギの谷垣よ」
こう問われると、もはや谷垣には二瓶鉄造に銃を向ける理由がありませんでした。
白石が仕入れた二瓶鉄造の情報
その夜、杉元たちはアシリパの小屋で街から帰った白石と再会します。
3人は仕留めたエゾシカの肉でチタタプ鍋を美味しく食べると、白石の土産の酒を飲んで酔っ払い、この日は楽しいひと時を過ごしました。
突然、白石が今日街で仕入れた入れ墨の囚人の情報について話し出します。
アイヌ犬を連れた初老の男。
その男は猟師の間では有名で、冬眠中のクマも恐れるほどの腕前なんだとか。
その男の名は二瓶鉄造。
それはアシリパも知っている名前でした。
昔、猟師を狙って獲物を奪う悪い奴らがいたが、そいつらは狙ってはいけない人物を狙ってしまった。それがまさに二瓶鉄造だったというのです。
さらに、二瓶鉄造は毛皮商人に「もし白い狼の毛皮が手に入ったらいくらで買う？」と聞いていたというのです。
白石の話を聞いたアシリパは谷垣や二瓶鉄造の狙いが自分ではなくレタラだったことに初めて気づきます。
レタラの身を案じ不安になるアシリパでしたが、杉元はしっかり休んで翌朝から行動しようと説得します。
この時、杉元の脳裏にはレタラのことでは二瓶鉄造のことが思い浮かんでいました。杉元にとってはレタラよりも入れ墨の囚人のほうがよほど興味があるのです。
やがて訪れた勝負の時
杉元たちが小屋で寝ていた頃、「あらいっこ」を済ませた谷垣と二瓶鉄造は夜通し木の上から待伏せをしていました。
ところが、「あらいっこ」している間にエゾシカの肉を食べられた形跡があり、谷垣は狼に見られているというこの状況を、「送り狼」と説明します。
さらに、狼に見張られると身に着けている者を落して注意をひけば狼は追ってこなくなるらしいと付け加えます。
すると二瓶鉄造はレタラの糞をわざと燃やし、狼の糞で狼煙を上げることで逆に嫌な侵入者としての存在をアピールし、自分たちに執着心を植え付けようとします。
はたして、二瓶鉄造の読み通りレタラは戻ってきました。
ところが、二瓶鉄造は杉元たちに発見されてしまいます。
同じ脱獄囚である白石に確認させて二瓶鉄造本人であることを確認すると、杉元は容赦なく銃を向けます。
「白石か、なるほど目当ては俺の入れ墨か・・・」
相変わらず軽口を叩く二瓶鉄造に対し、杉元は単発の村田銃で太刀打ちできるのかと挑発！
二瓶鉄造が、「試してみるかね？」と足を踏み出した瞬間、アイヌ犬のリュウが杉元を襲います。
「でかしたぞ！湯たんぽ！」と叫ぶと同時に杉元にナタで切りかかる二瓶鉄造でしたが、杉元に防がれて左腕を切り落とされてしまいます。
ところが二瓶鉄造は全くひるむことなく猟銃で杉元に殴りかかります。
「獣のクソになる覚悟はできてるんだろうな！？」
はたして二瓶鉄造はレタラを仕留めることができるのでしょうか？
そして杉元は入れ墨人皮を手に入れることができるのでしょうか？
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