ITパスポート試験の合格率に文系・理系で有意差があるかという議論があります。この答えに文系一筋でありながら第1回目に実施されたITパスポート試験で一発合格した筆者が答えます。
筆者の個人的な見解ではITパスポート試験は理系のほうが圧倒的に有利です。その理由は明確で、ITパスポートで鍵となるテクノロジ系の問題は理系出身者のほうが馴染みのある概念で構成された問題が多いからです。そして、これは数式などに触れる機会の乏しい文系出身者にはすぐに理解することが難しいからです。
ただし、IPAが公開している過去の受験者の属性と合格率を見てみると必ずしも理系が有利だと言えない場合もあるのは非常に興味深い事実です。
どうもITパスポート試験は受験者の属性によって大きく影響されにくいようアレンジされ続けていることが予想されます。
後述しますが、IPAが公開しているITパスポートの試験結果によると、社会人に占める非IT系の受験者の合格率がIT系を上回るという事実もあり、これをもとにITパスポートは文系のほうが有利だと主張する人がいるのも事実で、あながち間違ってはいないと感じます。
そのため、筆者の個人的な見解はある程度の参考材料に留めて頂くと同時に、IPAの公開データを参考にする際は受験者のより細かい属性など隠れている詳細情報があることも理解しておく必要があります。
文系と理系の頭の使い方の違い
この項目では筆者の個人的な見解に基づいて、文系と理系でITパスポートの合格率に有意差があるか述べます。
そもそも論ですが、ITパスポートに限らず文系と理系では物事を理解する時の仕組みが異なります。
まず、数学の公式を目の前にした時の反応の違いについて文系と理系を比べてみます。
文系出身者の頭の使い方
例:
y=ax+b
aは定数でxは変数。xの値が変化するごとにyの値も変化します。
定数ってなに?aは定数ってどういう意味?
xとyの値をグラフで表すと斜めの直線になるって説明されたけど、それがなんなの?
このグラフで何が説明できるわけ?
というふうに、どうしてそうなるのかいちいち疑問を持ってしまいます。
より詳しく説明すると文系の頭は関数という概念そのものを理解するのが苦手です。
なぜなら、関数は一定の決まりのうえに成り立つルールであり、前提条件だからです。
文系はこの前提条件を素直に受け入れるのが苦がです。
なぜなら文系は物事の原因と結果を単一の原因と単一の結果という型にはまった思考で導き出すのを嫌うからです。
これは自然科学の成り立ちがプラトンやソクラテスといった哲学から出発していることと大きく関係します。
それでは理系出身者の場合はどうかというと、次のようになります。
理系出身の頭の使い方
例:
y=ax+b
aは定数でxは変数。xの値が変化するごとにyの値も変化します。
これは一次関数である。
aの値がなんであろうとxとyは比例の関係にあり、x=0の時y=bとなる。
また、aの値が正か負のいずれを示すかによってグラフは右肩上がりか右肩下がりに分かれる。
というふうに、学校で習った一次関数をそのまま素直に受けれて根ほり葉ほり考えません。
理系の考え方は、これはこういうものだとして既成概念をまず受け入れるところから出発する傾向が強いので、出発時点で躓くことが少ないのです。
また、こういう理系の発想の仕方はなにも数学の問題を解いたりする時だけでなく、極端な場合だと人間関係においても当てはまることがあります。
変化する事象を変数として捉え、結果も変数の変化に伴い変わるという考え方をするので、人を変数のように「居ても良い人」・「居ると邪魔な人」と立て分けることもあります。
こういう発想の仕方は時として組織の合理化や作業の効率化を図るうえで非常に貴重ですが、そこに人としての感情が介在しない場合、極端な功利主義に陥る危険性があるので注意が必要です。
ITパスポートの試験範囲と文系・理系の有利さの違いを分野別に解説
この項目ではITパスポート試験を受験するにあたり文系と理系でどのような有意差があるのか、出題される分野ごとに説明します。
下表はITパスポート試験の出題範囲をIPAから引用したものです。
大分野が3つに分かれており、その配下に大分類・中分類と細分化されているのが分かります。
ここでは大きく3分野に分けて文系・理系の違いについて解説します。
分野 | 大分類 | 中分類 | ||
1 | 企業と法務 | 1 | 企業活動 | |
2 | 法務 | |||
2 | 経営戦略 | 3 | 経営戦略マネジメント | |
4 | 技術戦略マネジメント | |||
5 | ビジネスインダストリ | |||
3 | システム戦略 | 6 | システム戦略 | |
7 | システム企画 | |||
4 | 開発技術 | 8 | システム開発技術 | |
9 | ソフトウェア開発管理技術 | |||
5 | プロジェクトマネジメント | 10 | プロジェクトマネジメント | |
6 | サービスマネジメント | 11 | サービスマネジメント | |
12 | システム監査 | |||
7 | 基礎理論 | 13 | 基礎理論 | |
14 | アルゴリズムとプログラミング | |||
8 | コンピュータシステム | 15 | コンピュータ構成要素 | |
16 | システム構成要素 | |||
17 | ソフトウェア | |||
18 | ハードウェア | |||
9 | 技術要素 | 19 |
<2022年4月の試験から> <2022年3月の試験まで> |
|
20 |
<2022年4月の試験から> <2022年3月の試験まで> |
|||
21 | データベース | |||
22 | ネットワーク | |||
23 | セキュリティ |
ストラテジ系・マネッジメント系
まず、ストラテジ系・マネッジメント系についてですが、この2つの大分野については文系・理系で合格率に大きな有意差はないと考えられます。
強いて言うなら、既存の概念をそのまま素直に受け入れる習慣の強い理系のほうが有利だと言えます。
ただし、文系は数字よりも文章と触れ合う機会が多いので、文章に飲み込まれず疲れないのは文系のほうかもしれません。
理系出身者にありがちな話ですが、理解するより覚えるのが得意なのは数式ばかりで、文言を覚えるのが非常に苦手なケースがあります。
問題文や解説・解答を読む以外に字を読みたくないというタイプは理系に多いかもしれません。
テクノロジ系
さて、ここからが本題のテクノロジ系です。テクノロジ系はストラテジ系・マネッジメント系と違い、計算問題が頻出します。
また、ほぼ全ての計算問題において、問題の解き方を公式も含めて知っている必要があります。
つまり、テクノロジ系では知らない問題や見たことのない問題が出題されると大ピンチというわけです。
下記はテクノロジ系の問題を解く際に文系・理系にどのような違いがあるか、筆者なりに考えた有意差を△〇◎で比較したものです。
文系 | 理系 | |
問題の解き方を覚える | 〇 | ◎ |
公式を当てはめ計算する | △ | ◎ |
始めて見る問題が出た時の反応 | △ | 〇 |
問題の解き方を覚える
問題の解き方を覚えるのはテクノロジ系では必須条件です。
馬鹿みたいに丸暗記するのではなく、問題の意味を理解したうえで解法の手順を導き出す理解力と暗記力が必要です。
これは筆者の考えでは理系のほうが有利だと考えます。
なぜなら、テクノロジ系の計算問題の多くは解法の手順を知ると同時にそれを素直に受け入れる必要があるからです。
冒頭で紹介した文系・理系の違いでも分かるとおり、理系は文系よりも既成概念を素直に受け入れて考える傾向があるので、問題の解き方を覚えるのは理系のほうが楽なはずです。
理系の場合、もしも理解に苦しむ前提条件が提示されていたとしても、それが正解だというのならそういう前提でまずは理解を進めようとする傾向が強いです。
公式を当てはめて計算する
解法の手順を覚えていれば正当を導き出すまであと一歩です。
ただし、そのためには正しく公式を当てはめたうえで計算を誤らないという大前提があります。
正しく公式を当てはめる点については問題の解き方を覚えるのと同じで、これもまた前提条件を素直に受け入れる理系のほうが有利だと筆者は考えます。
問題は公式に数字を当てめて計算することですが、文系は計算が苦手というより高校・大学などで計算そのものに接する機会が非常に少ないため、そもそも計算力が不足している点は否定できません。
事実、文系の人がITパスポートを受験して誤答を導いてしまう場合、解法の手順は正しいのに計算ミスで間違ってしまうケースは多いです。
また、テクノロジ系の計算問題ではそういう人が間違いやすいよう、間違って導き出される頻度の多い解答を選択肢として用意していることが多いです。
ITパスポートはどちらかというと落す試験なので、いかにも正答らしいけれども実は誤りである選択肢が必ず用意されています。
始めて見る問題が出題された時の反応
始めて見る問題が出題された時の反応も文系と理系では異なります。
こういうケースでは理系は知っている限りの前提条件を仮に問題文に当てはめてみようとします。
つまり消去法で片っ端から知っている回答の手順と共通する部分はないか検討するのです。
ところが文系の場合、始めて見る問題に出くわすとじっくりと問題文を読んでしまい、問題文にあたかも伏線があるかのように深読みしてしまいます。
これは文学を読みながら作者の気持ちを想像したり、時代背景と照らし合わせてさらに隠された何かを掴み取ろうとする文系にありがちスタイルですが、ITパスポートのテクノロジ系に対しては無意味です。
ITパスポートで出題される計算問題にはそんな深い意味を全くありません。
ただ、知っているはずの解法の手順が「これだ!」と気付きにくいように少し捻って出題されることもあるという程度で、分かってしまえば馬鹿らしい問題しか出題されません。
つまり、知っているか否か、覚えているか否かが非常に重要なのです。
そのため、始めて見る問題に出くわした時の反応について有意差があるか否かというと、理系のほうが有利だと筆者は考えます。
IPAの公開情報をもとに文系・理系どちらが有利か検証
以上がITパスポート試験における文系と理系の有意差に関する筆者の独自の見解となります。
しかし、個人の勝手な見解だけでは全く信憑性に欠けるので、IPAが公開している試験結果のデータを検討材料に加えてさらに考察を続けます。
試験結果だけを参考にすると非IT系の合格率が高い
下記は令和3年4月・令和3年4月~令和4年3月までのITパスポート試験の受験者と合格者の比率を学生と社会人に分け、社会人の受験者と合格者をIT系・非IT系に分けて表したものです。
先に結論を言いますと、非IT系のほうが合格率が通年で高くなっています。
PDFファイルなのでダウンロードしたい場合はこちらからどうぞ。
このグラフは非常に興味深いことに社会人の受験者・合格者ともに非IT系のほうが遥かにIT系を上回っていることを示しています。
ただし、これだけを見て非IT系のほうがIT系よりも合格率が高いという結論を導き出すのは少し無理があります。
なぜなら、比較する受験者の分母が両者でかなり異なるからです。
また、データの収集期間も数年単位で比較しないと信憑性に欠けます。
下表は上表から社会人の受験者・合格者・合格率についてR4年3月とR3年4月~R4年3月までの1年間の結果を抜粋したものです。
R4年3月 | R3年4月度~R4年3月度 | |||
IT系 | 非IT系 | IT系 | 非IT系 | |
受験者数 | 3,278人 | 22,174人 | 31,100人 | 119,547人 |
合格者数 | 1,735人 | 11,305人 | 16,640人 | 69,852人 |
合格率 | 46% | 51% | 52.9% | 58.4% |
たしかにR4年3月の単月だけ見てもR3年度の1年間の合計を見ても、明らかに非IT系のほうが合格率が高いのは事実です。
非IT系を文系と位置付けると文系のほうがITパスポートに有利⁉
少し乱暴ですが、もしここでIT系を理系、非IT系を文系と分類したとすると、これは筆者が考えるITパスポートは理系のほうが文系よりも有利だという考えと真逆の結果を示していることになります。
ただし、受験者の数が通年で非IT系はIT系の3倍もありますし、なによりも学生など社会人以外で多くの受験者数を占める集団について文系と理系の比率がIPAの試験結果からは読み取れません。
以上2点のことから、ITパスポート試験は文系が理系よりも有利だと判断するには少々説得力に欠けると言えます。
IPAの公開情報がもう少し詳しければよりはっきりしたことが分かるはずですが、少なくとも上のグラフだけで断定するのは難しい気がします。
そこで、次の項目では現状で最も有力な判断材料となりそうな学生の合格率について紹介します。
学生の合格率を比較材料に加えると理系が有利?
下表はIPAの公式サイトで公開されている令和5年度のITパスポート試験の合格率について、大学・大学院・短大に分けたうえ、それぞれの学校を情報系・非情報系に分けて合格率を一覧にしたものです。
このデータに基づいて考察した結果、いちおう理系のほうが文系よりも合格率が高いという結果になりますが、後述しますがこれには少々議論の余地があります。
上記リンク先からPDF、エクセルファイルを選択的にダウンロードできます。
この資料はITパスポートの学生の受験者の合格率について理系・非理系でどれくらい有意差があるか見極めるうえで貴重な検討材料となります。
これは月別のデータを個別に示したうえで表の右端の列に通年の平均値を示しているので、右端のデータを抜粋したものを下記に示すます。
なお、IPAの公開データには短大・高校など全ての学校種別が示されていますが、ここでは敢えて受験者に占める比率が最も高い大学院と大学だけに留めることとします。
学校種別 | 合格率 | 受験者 |
大学院 情報系 | 57.7% | 130人 |
大学院(非情報系) | 67.7% | 455人 |
大学(理工系の情報系) | 44.7% | 1,496人 |
大学 (文系の情報系) | 39.5% | 1,300人 |
大学(情報系以外の理工系) | 52.6% | 941人 |
大学(情報系以外の文系) | 49.6% | 3,215人 |
上記6種類の大学院・大学についてどれが文系でどれか理系か区別するのは少し難しい気もします。
そこで、筆者なりにおおまかな目安を付けて理系・文系に分類できそうなものとそうでないものを区別してみました。
- 大学院(情報系)
情報理論やシステムを研究しますが研究室は文系・理系に分かれるので、受験者を厳密に理系・文系に分類するのは困難です。 - 大学院(非情報系)
上記の情報系大学院を除く全てが該当するので文系・理系の区別は難しいです。 - 大学(理工系の情報系)
理工系の大学ということで、とりあえず理系に分類できそうです。 - 大学(文系の情報系)
情報技術を社会でどのように扱うか」という観点で技術よりも理論などを扱うのが一般的なので、限りなく理系に近いですがITパスポートの受験者層としては文系に分類できそうです。 - 大学(情報系以外の理工系)
情報系ではありませんが、理工系ということでITパスポートの受験者層としては理系に分類できそうです。 - 大学(情報系以外の文系)
情報系ではないだけで文系の大学なので、ITパスポートの受験者層としては文系に分類できそうです。
要するに、IPA公開データだけでは厳密に学生の受験者を文系・理系に区別するのは難しいことが良く分かります。
明確に区別できそうなものは下記の通り4種類です。
- 文系
- 大学(文系の情報系) 合格率 39.5%
- 大学(情報系以外の文系) 合格率 49.6%
- 理系
- 大学(理工系の情報系) 合格率 44.7%
- 大学(情報系以外の理工系) 合格率 52.6%
このデータだけを頼りにすると文系大学の学生の合格率は平均44.5%となり、理系大学の学生の合格率は平均48.6%となり、理系が平均合格率で上回ることになります。
しかし、個別に比較すると理工系の情報系大学は情報系以外の文系大学に劣っていることから、一概に理系が有利だと言えない一面もあります。
また、情報系であるか理工系であるかの違いで合格率に有意差が見られるかどうかというと、これもまた判断しかます。
まとめ
以上、ITパスポートの合格率に理系・文系で有意差がみられるかについて文系一筋でありながら第1回の試験で一発合格した筆者の個人的な見解をはじめ、IPAの公開データを元にIT系・非IT系、また文系・理系で合格率に有意差が見られるか考察してみました。
長くなりましたが、どうもITパスポート試験は学生に関しては在籍している学部や学科が理系か文系かによって合格率に極端な違いは見られないと考えたほうが無難なようです。
筆者は冒頭から中盤にかけて個人的には理系のほうが有利であると力説してきましたが、公開データは嘘をつきません。
公開データを見る限り、見方によっては理系が有利だという結果も導くことができますが、少し味方を変えると結果は変わります。
ITパスポート試験の合格率について受験者が所属する属性で大きな有意差が見られないとすれば、それはそもそもIPAが期待していた結果に近づきつつあるのかもしれません。
なぜなら、ITパスポートは専門職の資格ではなくITに関する基礎知識を幅広く問う問題が出題されるので、特定の属性に所属する集団が有利になるようだと本来の目的に反しているとも言えるからです。
つまり、合格率が受験者の現在の環境に左右されにくいよう考慮しているのではないでしょうか?
ただし、繰り返しになりますがIPAの公開データには学生が所属する学科や大学院生の専攻など詳しい情報が記載されていないので、公開情報だけを頼りに文系・理系を厳密に区別できていない点はご了承下さい。
また、今回の考察は社会人で受験した人の最終学歴については触れていませんが、それについては公開情報が存在します。
その他、ITパスポートの受験者数と合格率について受験者の勤務先別で一覧に公開データも存在しますが、このデータからはITパスポートが事務職に向いているか否かという議論に対して一定のヒントを得ることができます。
詳細はITパスポートは事務職に向いている?事務職経験者がデータをもとに解説で詳しく解説しているので興味のある方は参考にされると良いでしょう。
なお、今回の考察において既卒者の最終学歴も検討材料に加えると、より詳しい傾向が掴めるかもしれませんが今回はここまでにしようと多います。
この考察がこれからITパスポートを受験しようと考えている人にとってプラスの材料になれば幸いです。
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