クリスマスを前日に迎えた今日、坂本龍一の「ミリークリスマス・ミスタ―ローレンス」のメロディーが頭に鳴り響いて懐かしい気持ちになりました。『戦場のメリークリスマス』は太平洋戦争中のインドネシア・ジャワを占領した日本軍の司令官(坂本龍一)とイギリス軍の捕虜兵士(デビッド・ボーイ)との魂のふれあいを描いた感動作品です。
『戦場のメリークリスマス』キャスト紹介
日本公開:1983年
監督:大島渚 キャスト ヨノイ大尉:坂本龍一 ジャック・セリアズ少佐:デビッド・ボーイ ハラ軍曹:ビートたけし ジョン・ローレンス中佐:トム・コンティ |
『戦場のメリークリスマス』あらすじ
1943年、東南アジアを侵略していた日本軍はインドネシアのジャワを占領し、現地の俘虜収容所でイギリス軍・オランダ軍の兵士を収容して労役にあたらせていました。
収容所所長のヨノイ大尉は勤勉実直な性格で典型的な陸軍士官です。そんなヨノイ大尉が管理する俘虜収容所にイギリス軍の俘虜ジャック・セリアズ少佐が新たに収容されたことで、頑ななヨノイの心にほころびが見られるようになります。
セリアズ少佐はヨノイ大尉の俘虜に対する扱いに納得できないことがあると、たとえ処罰されても徹底的に抵抗するという強い意志を持っており、俘虜の間でも人望の厚い兵士です。ヨノイは頑固で反抗的なセリアズに興味を持ち、自分でも分からないうちに心を惹かれていきます。
一方、セリアズ少佐よりも先に収容された顔見知りのローレンス中佐は日本語が堪能なため雑な対応をされず、通訳として俘虜を管理するハラ軍曹と頻繁にやり取りをしており、同じ俘虜の仲間から特別扱いをされていると嫌味を言われたりしています。
そんな対照的なセリアズとローレンスですが、黙って無線機を隠し持っていたことがバレて2人とも牢屋に入れられてしまい、ローレンスは厳しい体罰を受けて歩けないほどの重症を負います。
ところで、その日はちょうどクリスマスだったのでハラ軍曹は酒を飲んで酔っ払ってしまい、「ファーザークリスマス、ミスター・ローレンス」と馬鹿笑いをして2人を許してしまいます。この時のハラ軍曹の独断の恩赦が大きな意味を持っていたことが後から分かります。
その後、収容所ではヨノイが以前から俘虜の代表であるヒックスリー大佐に対して、銃の製造知識のある者を探して教えるよう要請していましたが、ヒックスリーは嘘をついて知らない不利を貫きました。
ある日、業を煮やしたヨノイは収容所の俘虜全員に集合命令を出します。その際、病棟で休養している重症の兵士が並んでいなかったことに言いがかりをつけヨノイはヒックスリーを非難したため、仕方なく重症の俘虜も呼び出した結果、1名が倒れて死んでしまいます。
ここぞとばかりにヨノイを非難するヒックスリーに対して、ヨノイは鉄砲の知識のある者を教えるよう要求していたはずだと全員を無理に整列させた本心を見せます。
しかし、それでもヒックスリーが白状しなかったためヨノイの怒りは頂点に達し、日本刀でヒックスリーの首を切ることに決めます。
「斬る」という強い意思を秘めた一言を発した後、ヨノイは部下にヒックスリーを押さえつけさせ、日本刀を振り上げた次の瞬間、なんとセリアズが列の中から歩いてヨノイの方へ向かって来ました。
ヨノイは「貴様、そこをどけ」とセリアズを突き飛ばしますが、セリアズは立ち上がるとヨノイの肩両手で抱き、両側の頬に愛情のキスをします。
このキスに衝撃を受けたヨノイは刀を振り下ろすことができず、気を失ってしまいヒックスリーの死刑は中止されましたが、セリアズは日本兵にボコボコに殴られ首から下を土に埋められるという罰を受けます。
そしてこの罰は実質的にセリアズの死刑執行となってしまいました。何日も水も食料も与えられないまま首だけを地表に出したままの状態が続き死ぬ間際になって、セリアズの脳裏にある思い出がよぎります。それはかつて心臓が弱いことで男子校で酷いイジメを受けた弟のことでした。
セリアズは体は頑強で学力も優秀だったため男子校の寄宿舎でも立場の強い存在でした。セリアズには一人の弟がいましたが、弟は生まれつき心臓に病気を抱えていました。
ところが、弱い者は酷い洗礼を受けるという男子校の悪い伝統を知っていたセリアズは弟を庇うことができたにも関らず、自分は関係ないという立場を貫き弟を見捨ててしまい、弟は酷いイジメに遭います。
イジメに遭った弟には歌を唄うという素晴らしい特技があったにも関わらずそれも認めてもらえず、イジメのせいで弟は2度と歌を唄うことを止めてしまいました。この青年時代の過ちをセリアズは心の底で悔やみ続け、苦しみから逃れるために戦争に参加したのです。
そして俘虜となったジャワの地で、かつて弟を見捨てたようにヒックスリーを見捨てることが出来なかったセリアズは、死を覚悟してヨノイが刀を振り下ろすのを阻止したのです。そうすることでセリアズは自らの命を犠牲にしてヨノイの心に愛情という種を撒いたのです。
その後1年もしないうちに戦争が終結しヨノイは死刑となります。ハラ軍曹も戦犯として死刑が確定しましたが、死刑執行を目前に控えたハラの前にかつてハラが酷い仕打ちをしたローレンスが見舞に訪れます。
ローレンスはハラに死刑になることを残念だと伝えた後、死刑になる前のヨノイからセリアズの髪の毛を預かっていたことを話します。ヨノイは自分が死んだら日本の実家の村へ行ってセリアズの髪の毛を奉納して欲しいとローレンスに言い残していたのです。
自らが死に追いやった人間から愛を教わり、その人の形見を自分の墓に奉納して欲しいと望んだヨノイの気持ちは、損得勘定を抜きにした人間愛そのものと言えるでしょう。2人のどちらの命も奪ってしまったのは戦争がいかに無価値で矛盾した行為であるかを物語っています。
ローレンスとハラは、収容所でクリスマスの日にハラが酔っ払ってローレンスを許したエピソードを思い出して笑い合います。そして最後にハラが「メリークリスマス、ミスター・ローレンス」と笑ってお祝いをして幕を閉じます。
『戦場のメリークリスマス』感想
『戦場のメリークリスマス』という題名だけを見ると戦争映画と勘違いされそうですが、これは正真正銘の人間ドラマです。
舞台が太平洋戦争中のインドネシア(ジャワ)というだけで、物語の内容は人間と人間の愛を描いたものだと感じました。
ヨノイ大尉を演じた坂本龍一が生真面目な旧帝国陸軍の将校にピッタリのイメージを出せているのは素晴らしかったです。筋肉隆々でゴリゴリの軍人を演じられたりしたら大失敗になったはずなので、これは坂本龍一で大成功だったと言えます。
ジャック・セリアズを演じたデビッド・ボーイは40年近く前だったこともあり、若くてめちゃくちゃハンサムなだけでなく、素直に言うことを聞かない意思の強さを演じるには打ってつけの役柄だったと言えます。
アーティストという存在で、さらにイギリスを代表するロックの大御所という癖の強さがセリアズを演じるうえで絶妙な味が出せていると感じました。
また、物語が重くなり過ぎないように緩衝材としてハラ軍曹のようなキャラが重要になってきますが、ビートたけし演じるハラ軍曹も見事な当たり役だったと言えます。
そして、最後に一人だけ生き残ることになるローレンスもトム・コンティで正解でした。通訳という中立な立場を演じる役柄には癖が強すぎても弱すぎても難がありますが、トム・コンティはその点が最も適任だったと言えます。
相対的に配役が見事だったことと、ストーリーは重たいのに感動して涙が止まらないという、映画作品のなかでは名作に入ること間違いなしの一品です。
私は個人的にこの作品を通しで5回観ましたが、名作は何度観ても飽きません。
今年も来年も再来年も、本気で感動したいクリスマスには『戦場のメリークリスマス』をお勧めします。
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『戦場のメリークリスマス』補足
『メリー・クリスマス ミスターローレンス Merry Christmas, Mr. Lawrence』は、作中でハラ軍曹がラストシーンでローレンスに向かって言った最後のセリフで、この作品の題名と直接つながっています。
ハラの最後の思いを作品の題名にしたものと思われますが、作中で流れるサウンドトラックで最も有名な曲の曲名も『メリー・クリスマス ミスターローレンス Merry Christmas, Mr. Lawrence』です。
ちまたでは「戦メリ」のサントラの中の1曲として非常に認知度の高い曲ではありますが、曲名を『戦場のメリークリスマス』と勘違いしている人がかなり多いことでも有名です。
映画の印象が強烈すぎて、サントラの代表格である曲名も映画の題名と同じであるという先入観が招いたもので、私も長年誤った認識をしていました。
坂本龍一のサウンドトラックをCDなどで購入した人ならば当然知っていることですが、映画だけ見たことがあるという人の中には勘違いしている人がかなりいます。
私は以前、知人と『戦場のメリークリスマス』のことを話題に話していた時に、「サントラの『戦場のメリークリスマス』が最高だよね!」と話したところ、知人に「それ間違ってるよ。『メリー・クリスマス ミスターローレンス』が正確な曲名だよ」と教えてもらったのに信用しませんでした。
後になって間違っていたのが自分だと知った時はとても恥ずかしい気持ちになりました。人の先入観とは怖いものです。
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